駅弁
大竹 広明(昭和 44 卒 OB)

2 年生春の演奏旅行で服部先生付きを仰せつかった。旅行中先生に同行し、スーツケースの持ち運びや身の回りのお世話をする役目。指名された者はその大役のあまり、演奏旅行の楽しみは吹き飛んでしまうものだ。
四国の国鉄(JR)を次の演奏地に向かう二等車(グリーン車)内でお昼時になった。
「先生、駅弁を買いましょう。」
「いいね。」
停車駅で窓を上げ、駅弁屋さんを呼んだ。
「駅弁二つ。」
「上と並があります。」
「上二つ。」
「上はひとつしか残っていません。」 一瞬私は戸惑い、すぐさま
「並二つお願いします。」
先生と私は並の駅弁を仲良く並んで食べた。

演奏会場で仲間と会い、このことを話したら、
「大竹は馬鹿だなあ。当然先生には上を差し上げるべきだよ。」
先生のお気持ちを考えると、やはり同じものを買って良かったと思う私。

その事件以来、先生が見違えるほど優しくなった。
「大竹さん、一緒に着替えよう。」と言われ、ホテルでユニフォームに着替えたり、屋島の上り坂を籠ですれ違った人を「大竹さん大空真弓だよ」と教えてくれたり、かわらけ投げまで楽しませてくれた。
お仕事の関係で演奏旅行の途中で帰京される先生を鳥取駅でお見送りしたあと、ホーム上でみんなが胴上げしてくれた。
先生の懐に飛び込めた貴重な経験になった。