ドムラのお話
荻原 正弘

タマーラ・ヴォルスカヤ

皆さん、ロシアの民族楽器で構成するバラライカ・オーケストラというものをお聴きになったことがあると思います。バラライカは三角の形をした三弦のロシアを代表する民族楽器ですね。私たちにも耳なじみのロシア民謡には欠かせません。小型、中型、大型と、各種のバラライカで弾いていますね。でも、オーケストラをよく見てください。そのメロディーを奏でる音をよく聴いてください。マンドリンそっくりのトレモロのサウンドが響いているではありませんか!

この、レギュラー・オーケストラにおけるヴァイオリンや、マンドリン・オーケストラにおけるマンドリンと同様に、バラライカ・オーケストラで中心になってメロディーを弾いている楽器がドムラなのです。俗にロシア・マンドリンといってもおかしくありません。

ドムラには三弦ドムラと四弦ドムラがありますが、共に複弦ではなく鋼鉄の単弦です。通常、ロシア民族楽器オーケストラで弾いているドムラはバラライカ同様三弦で、調弦は下からE、A、D(普通型をマーラヤ・ドムラと呼ぶ)となっております。また四弦ドムラの調弦はマンドリンと全く同じで、下からG、D、A、E、となっており、ヴァイオリン独奏曲などを弾くのに適しています。1886年に農民たちの弾いていたバラライカの近代化をはかって現在のバラライカを作り上げたV.V.アンドレーエフは、これも発見された半球型の胴のバラライカを基に、失われてしまった16~17世紀の楽器ドムラの名前を復活させてこの楽器を1896年に作り上げました。そしてこのピッコロからコントラバスまでのドムラが、バラライカと共に民族楽器オーケストラの主要楽器となったわけです。有名なオシポフ記念民族楽器オーケストラが今年10月30日(カザルスホール)に来日公演の予定ですが、ここのコンサート・マスターを長年にわたって務めているのが、ここのところソリストとしても毎年のように来日しているアレキサンダー・ツィガンコフです。三弦ドムラの王様と呼ばれています。

これに対して四弦ドムラの女王と呼ばれているのがタマーラ・ヴォルスカヤです。彼女は現在ニューヨーク在のロシア人ですが、世界各地でコンサートを行い常に絶賛を浴びている天才的プレーヤーです。この彼女がやはり今年の10月半ばに来日しますが、KMC大先輩の山口寛さんを指揮者として抱える、私たちオルケストラ“プレットロ”の第4回定期演奏会(10月14日、杉並公会堂大ホール)において客演出演し、「ツィゴイネルワイゼン」その他を演奏いたします。彼女とオルケストラ“プレットロ”とは不思議とご縁があり、2年前にも「序奏とロンド・カプリチオーソ」を共演しております。ドムラとはどんな楽器なのか、弦の魔法使いといわれる現代音楽界における世界的演奏家、タマーラ・ヴォルスカヤの音楽とはどのように素晴らしいものなのか、お時間のある方はぜひこのコンサートを聴きに来てください。